NPO京都イノベーション・リソースについて(2021年5月現在)
京都イノベーション・リソース理事長 鴻野雄一郎
どのような経緯で設立し、どのような活動をしているのか皆様に知っていただく良い機会として掲載致します。
現在当法人の会員は個人会員27名、法人会員2社のメンバーで活動しており、個人会員は当初は京機会会員のみでしたが現在は他大学出身者も含み、関西地区の大手企業のOB及び京大機械系の教員OBと現役の教員で構成されています。この一文を通じてご興味のある方は当法人ホームページ(kir.or.jp)のお問い合わせ窓口(メールはこちらから)にご連絡いただければ幸いです。
1.NPOとは
NPOについてご説明するまでもないとは思いますが、念のため簡単に述べておきます。
Non-Profit Organizationの略ですが、特定非営利活動促進法に基づいて設立・運営されている法人で、この法の趣旨は「特定非営利活動を行う団体に法人格を付与すること等により、 ボランティア活動をはじめとする市民の自由な社会貢献活動としての特定非営利活動の健全な発展を促進すること」を目的としています。法人の活動内容は福祉、教育・文化、まちづくり、環境、国際協力など20の分野が列挙されていますが、柔軟に取り扱うこととされており社会貢献を目指すものであれば実質的にその内容に制約はありません。しかし法人の運営そのものには明確な会計処理や年度に一回の事業報告の提出などの情報開示が求められています。非営利と言いましてもボランティア活動のみでなく、活動資金を得るための収益事業を行うことは認められています。ただし、収益を会社のように配当などとして利益処分することはできず、特定非営利活動に係る事業のために使用しなければならないとされています。NPOの所轄は内閣府で同府によると全国のNPOは59,408法人あるとのことです。
2.京都イノベーション・リソース(略称 KIR)の設立
わたしは当法人の2代目理事長で初代理事長はS37年学部卒(1962年)の中谷征司氏です。私は当法人設立には関わっていませんでしたので、設立当時の経緯について知らないことも多いのですが、2006年当時京機会の有志が京機会MOTセンター(KMC)という任意団体を設立し、京都リサーチパーク株式会社(KRP)との協業で企業成長支援のための各種セミナー(資金調達やマーケット開拓など)を実施していました。その後2010年まで同セミナーの開催を初めとして、中国大連市を訪問しての製造工場実態調査や交流、個別企業向けの市場調査や技術評価、鉄道産業、エネルギー・環境、精密加工、自動車部品などの分野ごとのビジネスマッチング、また、やはり京機会出身者が設立にかかわったテクノロジーシードインキュベーション社(現 Social Impact Solutions株式会社傘下のティーエスアイ社の前身)からの企業経営支援の受託業務などを行っていました。活動内容そのものは現在の当法人の活動の先例となるものでしたが、地方自治体などからの受託業務などですと任意団体ではなく、契約主体となれる法人格が必要ですので2011年5月にNPO京都イノベーション・リソースを設立することになりました。
設立時の定款には「 この法人は、知識情報化社会実現への貢献を目的に、会員の持つ技術や経験を活用して、大学や企業などがそれぞれに所有するニーズとシーズの情報を収集し、これらを組み合わせるプラットホームを構築することにより、企業のイノベーションや新産業創出を支援することを目的とする」と記されており、イノベーションや新産業創出に貢献したいとの意気込みが見られます。その後この定款は一部表現を変えましたが基本的精神は変わっていません。
先に述べましたように全国には6万近いNPOがあり、その中には休眠状態になっている法人も多いと聞いておりますが、設立後10年を経て存続し、活動を続けていることは評価されてよいことではないかと我ながら思っております。
3.NPO設立後の活動
右図はNPO設立後しばらくして当法人の活動のイメージを説明するために作成したものです。
少し字が小さいですが、新しい価値の創造を通じて社会への貢献を行うことを目的に、ニーズとシーズをマッチングさせ、自治体や支援機関などとの連携により大学等との共同研究体制の構築支援などを行っていきます。ここでKIRは工学系出身者としての技術に対する理解力と企業勤務で培った知識や経験、人脈に加え京機会のネットワークを活用できるという強みを持っています。特に京機会会員ということで各大手企業の会員を通じてその企業にコンタクトできるということは当法人の財産であり、そのことに感謝しております。
4.活動のご紹介
さて、ここから活動の具体的内容について代表的なものをいくつかご紹介します。
1)オープンイノベーション支援
技術が進歩し高度となる中で大企業と雖も経営資源には限りがあり、社外の知恵や技術を活用して開発を進めようというオープンイノベーションが唱えられて久しいですが、当法人では2015年に大阪府の委託を受け、トルコの家電メーカーと大阪の企業とのオープンイノベーション事業に取り組みました。
日本では余り知られていませんがトルコには日本の東芝やパナソニックに匹敵する家電メーカーや総合電機メーカーが2社あります。このプロジェクトは大阪府がこれらメーカーの研究開発拠点を誘致したいとの意図のもとに企画されたものですが、当法人はこのプロジェクト全体の実施を受託しました。トルコ現地への訪問ヒヤリングから始まり、トルコ側のニーズ調査とニーズ解説書への落とし込み、国内
でのシーズ企業候補への事前説明会、トルコから招いた先方エンジニアを交えたオープンイノベーションフォーラムの開催、シーズ企業との個別面談会とその後のフォローなどに加え英文によるシーズ企業紹介冊子の作成など多岐に渡る活動を行いました。家電メーカー側からは51件のニーズが出され、国内の34企業から49シーズの提案があり、個別打ち合わせが行われました。
2)中小企業支援-販路開拓、用途開拓など
2014年から2017年の4年間、やはり大阪府からの受託事業で「新分野・ニッチ市場参入事業化プロジェクト支援事業」に取り組みました。(TSI社(現ティエスアイ社)他と共同で受託)
このプロジェクトは大阪府内の中小企業でキラリと光る新製品や新技術を持つ企業を数社選定し、それら新製品や新技術の用途開拓や販路開拓を支援するものです。この支援は右上図に示しますように単に“ああやれ、こうやれ”と指示するようなものでなく、支援先企業と同じ目線に立って、「伴走人」として一緒に活動しようとするもので支援する側の実行力が問われす。
4年間で20社程度の企業の支援をし、必ずしもすぐの売上増とならなかった場合もありましたが、支援を通じて仕事の進め方や事業化の考え方が参考になったと感謝された企業が多くありました。
3)テクノシンポジウムの開催
当法人では設立の項でご説明しましたように社会のイノベーションに貢献することを目標の一つに掲げてきました。この観点からの活動として、世の中に大きな変化をもたらすであろう新材料や新技術の動向を特に中小企業の皆様に知ってもらい、それぞれの会社に新しいビジネスを考えるきっかけとしてもらいたいということで「テクノシンポジウム」を2016年から現在に至るまで継続的に開催しています。
最初に取り上げたのは炭素繊維強化樹脂(CFRP)ですが、当法人会員には必ずしも専門家が居る訳ではありませんので、京大機械系の先生方のご支援やご指導を得て開催をすることができました。CFRPについては同学科の北條教授にお願いし、ご自身の講演を初め、取り上げるテーマと講師の方の紹介など大変なお世話になりました。なお、講演会終了後には懇親会も開催し、産学官からの参加者の交流を深めることができました。
シンポジウムの開催も大事な事業ではありますが、開催を契機として具体的な産官学の連携事業へと発展させることを考えておりCFRPに関するシンポジウムを3回開催した後、よりこのテーマを深堀する会員制のCFRP懇談会を2018年に立ち上げて運営していますが、この中から産学連携の共同開発テーマが出てこないかと期待しています。
CFRPの後、エネルギー問題特に水素社会実現に向けてのシンポジウムを企画し、このテーマではやはり京大機械系の塩路教授に大変お世話になりました。
水素につきましても3回のシンポジウムを開催し、一旦終了としましたが今年度以降CNF(セルロースナノファイバー)をテーマにシンポジウムの開催を企画しています。
この活動は当法人会員自身の勉強になる上、京機会を母体にして出発した私たちの特徴を生かせるものであり、今後も続けていきたいと考えております。
4)戦略的基盤技術高度化支援事業(通称サポイン)への参画
サポインは経産省による中小企業の技術開発支援事業で毎年公募されており、3年で約1億円の補助金が交付されるものです。(企業は必要資金の2/3補助、公設研究機関は100%補助)。この補助制度は産官学連携の研究開発グループを結成して応募するのが一般的で産学連携による企業(特に中小企業)のイノベーションに貢献することを掲げている当法人に相応しい活動であると考えています。
優れた技術開発をしていても、それを共同で取り組むグループまで結成するのは簡単ではありませんが、そこに当法人のネットワークを活用することで研究グループの結成とサポイン資金の活用による研究開発の推進に貢献することができます。2018年からこの活動に取り組み、2019年度にリサイクル炭素繊維を使用した高強度CFRPの開発に関するテーマがサポインに採択され、3年計画でプロジェクトが進められています。 右図はそのテーマの研究開発グループを示していますが当法人はアドバイザーとして参画しています。
5.最後に
以上この数年間の主な活動についてご紹介しました。当法人メンバーは退職者が殆どですので年齢は70歳前後の高齢者集団です。高齢者が元気に暮らすには食事や運動が大事なのは勿論ですが、特に社会との接点を持ち続けることが必要だと思われます。
ボランティア活動も良いですが働くことは収入を得ることと合わせて社会との繋がりを持つこととなります。
一方で自営業の方々を別にして、高齢者に働く場がそれほどある訳ではありません。
このようなことから、自ら働く場を作ってみてはどうかと昨年から「70歳からの起業」のアイデアを募る活動を始めました。まだ、軌道に乗ってはいませんが高齢者集団ならではの活動として進めていきたいと考えております。
当法人は会社のような指揮命令や厳格な規則があるものではなく、自由な意思を持つ個人の集まりです。
メンバーそれぞれが可能な範囲での活動をしております。
定年後の人生を無為に過ごしたくない、何か社会に貢献できることができないかと考えておられる皆様、
一度当法人のホームページを覘いてみてください。
終わり